心理士が語る、不妊治療中のメンタルケアの大切さ。
ストレスに対処するためのセルフケアも紹介。
公認心理師・臨床心理士 伊藤絵美さん×
はらメディカルクリニック 公認心理師・臨床心理士 戸田さやかさん

「出口の見えないトンネル」と喩えられることもある不妊治療は、身体的な負担はもちろん、精神的な負担も大きな治療です。一人ひとり状況が異なる不妊治療は、そのつらさを共有することが難しく、どうしても1人で抱え込んでしまいがちですが、深刻な状態にならないためにも、日頃からのメンタルケアがとても重要です。

そこで、『セルフケアの道具箱』(晶文社)をはじめ、専門的な知識を土台にしながら、日々の暮らしのなかですぐに取り入れられるストレスケアを考え、発信されている公認心理師・臨床心理士の伊藤絵美さんと、はらメディカルクリニックに勤め、不妊治療患者をサポートする、公認心理師・臨床心理士の戸田さやかさんのお二人に、話をうかがいました。前半は、不妊治療の患者さんから相談を受けることの多いストレスの種類について戸田さんがお話しし、後半は、それらのストレスにどう対処したら良いか、伊藤さん、戸田さんのお二人が語り合いました。今日からできるケアも紹介しているので、ぜひ取り入れてみてくださいね。

プロフィール

伊藤 絵美

洗足ストレスコーピング・サポートオフィス所長。公認心理師、臨床心理士、精神保健福祉士、ISST(国際スキーマ療法学会)Advanced Schema Therapist / Trainer & Supervisor in Individual Schema Therapy(認定上級セラピスト&トレーナー・スーパーバイザー)。大学院在学中より精神科クリニックにて心理職として勤務。個人カウンセリングや家族カウンセリングの他に精神科デイケアを立ち上げ、運営に携わる。その後民間企業にてメンタルヘルスの仕事をした後、2004年に洗足ストレスコーピング・サポートオフィス(認知行動療法、スキーマ療法を専門とする民間カウンセリング機関)を開業し、今に至る。主な著書に『セルフケアの道具箱』(晶文社)ほか多数。

戸田 さやか

公認心理師、臨床心理士、生殖心理カウンセラー、がん・生殖医療専門心理士、ブリーフセラピスト・シニア。大学と大学院で臨床心理学を学び、修士課程修了後、臨床心理士資格を取得。ご相談者様の悩みに耳を傾けるだけでなく、ともに解決方法を探し変化をめざす心理療法、ブリーフ・セラピーを得意とする。 専門は不妊治療、夫婦関係、親子関係、妊娠出産にまつわるメンタルヘルス、子育て、発達障害、セックスレス、性機能障害、親族を含めた家族の問題など。ご相談者様のニーズに沿った心の支援に努めている。

INDEX


【ストレスの原因を知る】まずは自分の苦しさに気づくことが大切

――臨床心理士として不妊治療患者をサポートしている戸田さんにまずお聞きしたいのですが、不妊治療患者の多くが精神的な苦痛を感じていらっしゃると聞きます。特に、治療が長期化している場合や高度化している場合に、高確率でうつ病や不安障害といった精神疾患、あるいはそれに似た症状が見られるそうですね。「不妊(妊活)うつ」という言葉があることを知ったのですが、それはどういった症状でしょうか? また、そのサインなどがあればお教えください。

戸田: 「不妊うつ」という診断名があるわけではないのですが、症状としては一般的な心因性のうつ状態と同じで、急に涙が出る、イライラする、落ち込む、食欲不振、不眠などがあげられます。高度不妊治療を受ける女性で軽度以上の抑うつ状態になる人は、半数以上とも言われています(※1)。

戸田さやかさん

――実際、どんな悩みや苦痛が患者さんからあげられるのでしょうか?

戸田: 最も目立つのは、「治療の終わりが見えない」ことへの苦しみです。頑張っても成果が出ない、一体いつ終わるのか、何も確約がないまま進み続けなくてはいけない。特に「努力をしても報われない」という経験は、非常に心が疲弊することだと思います。また、不妊治療は「これをやったらうまくいく」という「標準治療」もありません。毎周期、さまざまな治療法を示され、それを選択し続けなければならないこともまた苦しみですし、自分のせいで未来が変わってしまうかもしれないという恐怖やプレッシャーにもつながります。

――戸田さんが患者さんから聞いている不妊治療の悩みや不安について、伊藤さんが著書などで使われている「ストレッサー」(ストレスを起こす外部からの刺激)の視点で見るといかがですか?

伊藤: 不妊治療とは、ストレスの連続だと改めて感じます。そして多くの場合、不妊治療そのものが、最大のストレッサーとしてあって、そこに複数のストレッサー(ストレスを起こす外部からの刺激)が加わっていると思われます。

伊藤絵美さん

【ストレスに対処する】パートナーや職場の人間関係をソーシャルサポートに

――戸田さんは、他にはどのような悩みを多く聞いているのでしょうか。

戸田: 「夫婦間の温度差、すれ違い」の声も多く届きます。例えば、妻のほうは年齢的にも「今すぐにでも妊活をしたい」。一方夫は「まだ早い」と思っている。妻は「絶対子どもが欲しい」けれど、夫は「いつか自然にできたらいい」と思っている。こうした温度差があると、いざ治療が始まってもすれ違いが続き、「この人は、私たちの人生を何も考えてくれていない」と、愛情の問題に発展しやすく、最終的に離婚となってしまうケースも珍しくありません。

また、さまざまな理由でセックスレスの夫婦がいますが、その多くが、「性交渉しなければ、子どもはつくれない」という思い込みを持っていると感じます。そのため、「セックスレスの自分たちが子どもを持っていいのか」と悩み続けてしまうのです。また、子どもをつくるために性交渉をするとなると、例えば「とりあえず射精だけしてくれればいい」と考える女性に対し、それを難しいと感じる男性とのすれ違いが起こることもあります。

戸田さやかさんが、不妊治療中の患者さんから相談を受けることの多いお悩みを伊藤絵美さんにシェア

――多くの不妊治療患者が、パートナー間の不妊治療の温度差や、周囲の理解のなさに苦しんでいるようですが、こうしたストレスに対してはどんな対処法があるでしょうか?

戸田: 不妊治療はどうしても女性の負担が大きくなります。そこで多くの男性は「どうしたら自分が支えられるか」と悩むのですが、なぜかそれをパートナーに聞かないことが多い。それはなぜか。おそらく、以心伝心でわかってあげられない自分に自信が持てなくなってしまうのです。治療中、女性はパートナーに「察して」という言葉を頻繁に使うようになります。そこで男性は応えようと頑張るのですが、余裕を失っている女性からは、期待するような感謝や笑顔が返ってこない。そのうち男性は難しいクイズを試されているような気持ちになってしまうんです。

伊藤: そういうときは、何かいいことを言おうとせずに、ただ相手のつらさを聞いてあげるのがいいと思いますね。ただそばにいて背中をさすってあげるだけでも、つらさが和らぐということはあると思います。

戸田: 家庭内にとどまらず、仕事と治療の両立は、多くの女性が悩むところであり、またそれが夫婦間の問題にも発展しやすいと感じます。例えば、自分は通院のために周りに頭を下げ、タスクを管理して……と頑張る一方で、夫は何も生活が変わらない。そうすると「なぜ私ばっかり」という気持ちが湧き、夫婦間の溝が生まれてしまう。また、職場での扱いに不満を感じる人も。通院のために不妊治療中であることをオープンにしたところ、大変だろうからと責任あるポジションを外されたり、タスクを大幅に減らされたり、必要以上の配慮から、まるで腫れ物を扱うような対応をされてしまったというのです。

――職場の人間関係やコミュニケーションについての対処法があれば知りたいです。

戸田: 多くの人は不妊治療に対して「なんか大変そう」という漠然としたイメージは持っているのですが、具体的なことはあまり知らないと思うんです。企業にセミナーなどに行くと、「部下にどう大変なのかを尋ねるのは、ハラスメントになるんじゃないか」と思っている管理職の方もいます。ですが、仕事に影響する事情を把握するのは業務上必要なこと。その上で、一対一で話を聞くのが大切だとお伝えしています。当事者だけでなく周囲の人が、不妊治療に対して基本的なことだけでも知識を持つことが、適切なサポートにもつながるのではないでしょうか。

伊藤: パートナーやその周りにいる家族、職場や友人関係が、不妊治療のストレスをさらに高める場合と、逆にサポートとなってストレスを低めてくれることもあるでしょう。周囲に理解してくれる人がいるかいないかは、その人のストレスに大きく関わってくると思います。理解のあるパートナーや人間関係はソーシャルサポートとなり、自分助けにつながります。ぜひ周囲の協力を得るようにしていただきたいですね。

戸田: 自分以外の人は、みんな当たり前に妊娠しているように見えてしまい、まるで世界に1人取り残されてしまったような孤独を感じている人もたくさんいます。SNSや街中で妊婦や子連れを見かけるたび、恨みがましい気持ちが湧いてしまい、そんな自分を責めてしまうことも苦しさにつながっているようです。

伊藤: 私も不妊治療中のクライアントから孤独の問題を聞くことが多いです。同僚や友人の妊娠や、街中で妊婦さんや赤ちゃんを見かけることが、すごく刺激になってしまう。それによって人には言えないような黒い気持ちが湧き出てしまったりすることもあると思いますが、それは自動思考といって、自分の意思とは関係なく、瞬間的に浮かぶ考えやイメージです。だから、自分を責める必要はないんです。

【ストレスに対処する】ポイントは心理的柔軟性

――不妊治療では治療の段階によっても苦しみや悩みが変わってくるのではないかと思います。

戸田: そもそも不妊治療に対して否定的なイメージを持っていたり、「治療をしなきゃいけない自分には欠陥があるのだ」と、自分を責めてしまったりする人が多いと感じます。日本では「自然妊娠」という言葉をよく耳にします。不妊の現場に携わる一人の心理士としての考えなのですが、私はこの言葉をとても疑問視しています。そもそも妊娠はすべて自然の力で起こるもの。人工授精であれ体外受精であれ、変わりありません。それなのに、この言葉によって、性交だけで妊娠できないのは欠陥であると認識をしてしまう人がとても多いのです。

例えば、最初のタイミング法の段階では、「自然妊娠」できないことに対して、自信を失ってしまう人がすごく多いと感じます。そのせいで、人工授精は医療の力が入るのだから、すぐに妊娠できるはずだという思い込みが出てくるんですね。この時期、「ここまでしているのだから妊娠せねば」と、情報を探して検索魔になってしまう人や、怪しげな民間療法などに飛びついてしまう人も少なくありません。体外受精まで進むと、今度はどんどん「自然妊娠」から離れてしまうという劣等感のようなものを抱える方も多くいらっしゃいます。みんなが当たり前にできていることが自分はできないという想いから、無意識に思い描いていた人生のイメージがガラガラと崩れるような感覚になってしまうのだと思います。

伊藤: 「無意識に思い描いていた人生のイメージがガラガラと崩れるような感覚」というお話がありましたが、自分がどういう人生を歩みたいのかが見えなくなってしまい、不安が大きくなってしまう、ということも大きな問題としてあると感じました。

戸田: 不妊の心理に「生殖物語」という概念があります。これは、生まれたときから今までに育まれてきた、「親になる人生をどのように考えているか」という無意識の物語のことです。物語は人それぞれ違っていて、「いつか好きな人と出会って、その人の子どもを産んで父や母になり、いつか祖父母になる」「自分はきっと子どもは望まないだろうけれど、大切なパートナーと一緒にいられたらいいな」など様々です。「いつか自分の子どもを授かるはず」という生殖物語を持っている人が不妊の現実に直面したとき、その物語を書き換えなくてはいけないのが不妊の苦しみです。物語の書き換えは誰にとっても苦しいものですが、自分の生殖物語を比較的柔軟に書き換えられる方とそうでない方によって、つらさの感じ方も変わってくるような気がします。

――「この先の人生が見えなくなる」という問題に対しては、どんな対処法が考えられるでしょうか。

伊藤: まずこの問題には、「心理的柔軟性」の有無が関わってきそうだと思いました。「心理的柔軟性」とは、自分の思いに執着せず手放せるかどうか、あるいは、しんどい感情が出てきたときに、自分にとって大切な価値観に集中して、そちらに向かって行動できるか、といった能力のこと。最近注目される心理療法「ACT(アクト)」(Acceptance and Commitment Therapy)の中で用いられます。

――この心理的柔軟性が無いと、どういったことが起こりやすいのでしょうか?

伊藤: 「オール・オア・ナッシング」という言葉を聞いたことはありませんか? 白か黒か、二者択一的な考え方をしてしまうことを言いますが、まさに心理的柔軟性がないと、そうした思考パターンにハマりやすく、自分の一つの考えや思いに執着してしまいやすいのです。例えば、「子どもを持てない人生は最悪だ」という一つの考えだけが自分の真実になってしまう。でも実際、世の中には子どもを持たずに幸せに生きている人はたくさんいて、子どもを持つということは本当にたくさんある価値の一つに過ぎないのですが、そう気づくことができないのです。

――この「オール・オア・ナッシング思考」から解放される方法はあるのでしょうか?

伊藤: それにはトレーニングが必要です。私が専門にしている認知行動療法では、まず自分の考えに目を向ける、気づく、ということが最初のステップになります。そして、その考えが自分を苦しめているのであれば、別の考えを探すとか、その思考を一旦横においておく練習をするんです。いくつか具体的なワークをご紹介しますね

伊藤: 「オール・オア・ナッシング」思考では、「自分の価値」が一つになってしまっているのですが、本来であればさまざまな自分の価値があっていいわけです。そこでおすすめしたいのが、「価値のワーク」。

たとえば子どものとき何が好きだったか、どんな夢を持っていたかなど、自分が大切にしていることをリストに書き出してみます。そうすると、今まで考えられなかった選択肢が見えてくると思います。

私はよくクライアントと、自分の墓碑銘を考えるという名目でこのワークを行います。もちろん「お母さんとして生きました」と墓碑に書いてもらいたいかもしれない。だけど、母としての人生が生きられなかった場合、なんて書いてほしいかを聞くんです。すると、「身近な人といい関係を築きました」とか「いろんなところに旅行しました」といった内容が浮かんでくる。それもまさに、その人の価値なんですよね。

「オール・オア・ナッシング」思考にハマり、思うような結果を得られないと、つらい「自動思考」が出てきてしまうことがあります。街中で妊婦さんや赤ちゃんを見かけて妬ましく思ってしまうときなどは、まさにこの自動思考が働いています。そんなときの対処法として覚えておきたいのが、「うんこのワーク」です。

「自動思考」は、意志とは関係なく勝手に出てきてしまうもの。つまりは“うんこ”のようなもの。私たちは自分のうんこを一日眺めて悩んだり、こだわったりしませんよね。もしも妊婦さんや赤ちゃんを見て何か黒い気持ちが湧き起こったとしても、それは勝手に出てしまったのだから責任なんて持たなくて大丈夫。ジャーっと流してしまいましょう。

【今日から取り組めるストレスケア】具体的な方法を紹介

――メンタルヘルスを維持するためには、日頃から自分で自分をケアすることも大切なのではないかと思います。まさに伊藤さんの『セルフケアの道具箱』は、具体的な100個のワークを紹介している本ですが、今日から取り組めるストレスケアがあれば、ぜひ教えていただきたいです。

戸田: わたしは不妊治療の患者さんに、『セルフケアの道具箱』をおすすめしているんですよ。不妊治療のように大変なときに自分の心と深く向き合うような探索的なセラピーをするのは難しいので、具体的に自分をケアする簡単な方法が集まっているこの本がすごく役立つんです。

伊藤: 自分をケアする方法は持っておけば持っておくほどいいと思います。個人差があるので、どれが自分に合うケアかどうかは、やってみないとわからないのですが、これだけあれば、そのうちどれか一つは効果があるかもしれません。

セルフケアの具体的な方法が100個紹介されている伊藤絵美さんの著書『セルフケアの道具箱』(晶文社)

――いろんなケアの中から自分に合うものを見つけるということが大切なのですね。中でもお二人がおすすめのケアをご紹介いただけますか?

伊藤: モヤモヤやイライラ、苦しいつらいといった気持ちは、声に出したり言葉にして書き出したりして「外在化」してみましょう。外に出すことでスッキリしたり、頭の中が整理できたりします。SNSで鍵アカウントを作って吐き出すのもいいですし、ノートに書き殴ってもOKです。あるクライアントはそれを「絶叫ノート」と呼んでいます。

戸田: 絵が得意な方は、モヤモヤを絵にしてもらうのもいいと思います。心の痛みはなかなか言語化しづらいものですが、色彩や形でならそのイメージを表現できることがあります。

ハグ(抱きしめる)という行為自体に、人を落ち着かせる大きな効果があります。何も言葉にせずとも、パートナーをハグする、ハグしてもらうだけで、安心できることがあると思います。

伊藤: 自分で自分をハグするのもいいですし、クッションやぬいぐるみでも効果がありますよ。そして最近注目されているのが、「セルフ・コンパッション」です。簡単に言うと、自分に思いやりを向けるとか、自分に優しくすること。例えば、自分の内なる声に耳を傾け、「痛かったね」とか「つらかったね」と、優しく声がけをしてみてほしいんです。そうやって自分を大切にできるようになると、自分を責めたり否定したりする気持ちも和らいでいきます。

【セルフケア以外の方法】専門家に頼ることも大切

――セルフケアだけではどうにもならない、周囲には話せる人もいない……。そんなときはどうすればよいでしょうか?

戸田: 急に涙が出る、急に感情が爆発してしまう、眠れない、強く落ち込む、 不安でたまらない、過呼吸になる、消えたい・死にたい気持ちになるといった状態の方は、カウンセラーや精神科など専門家のケアを頼ったほうがいいと思います。国内の研究でも、不妊治療中に臨床心理士のカウンセリングを受けた方のほうが治療を中断せず、妊娠して卒業しているとの報告があります(※2)。これは、カウンセリングで治療によるストレスに対処できるようになり、治療を継続できたためではないか、と考察されています。

伊藤: 心理士がいるクリニックはどれくらいあるのでしょうか?

戸田: 日本には体外受精・顕微授精などの高度な不妊治療を行っている施設が600件以上(※3)とアメリカより多いのにも関わらず、専属の心理士がとても少ないんです。ただ、不妊治療を専門とした心の専門家がいるのだということは、ぜひ知っておいていただきたいです。

――不妊治療を専門とした心理士は、通常の心理士とどう違うのでしょうか?

戸田: 不妊治療の中身だけではなく、治療で起こりやすい問題についても把握しているという点が大きく違うと思います。たとえば、「私は不妊治療の〇〇法に取り組んでいて」と言われて、「それではこういうところが大変だよね」とすぐ理解ができますし、具体的なアプローチがしやすいかなと思います。

――カウンセリングではどのようなことを行なっているのでしょうか?

戸田: 通常は1回70分。カップルでいらっしゃる方もいるので、しっかり時間をとるようにしています。カップルの場合は、間を取り持つことをしないとコミュニケーションが難しいときがあるので、夫婦会議の調整役をすることもあります。

カウンセリングの流れとしては、まずは今あるつらさを伺いますが、それは治療のことに限らず、人間関係や仕事のことなどなんでもOKです。必ずしも特別なセラピーや治療をするということではなく、自由に話してもらって、気持ちの整理をして、必要な方にはストレスの対処法や、ストレスの正体や仕組みについてもお伝えします。1セッションで元気になっていく方も結構多いのですが、症状によっては何回かセッションを続けることも。

「はらメディカルクリニック」では、当院の患者でなくても、カウンセリングを受け付けています。オンライン対応もしているので、全国津々浦々からカウンセリングの希望がありますよ。

伊藤: まさに心理教育(病気にまつわる正しい知識や情報を患者に伝え、治療法や対処法を学んでいくこと)ですね。自分の状況についてわかれば、問題にも対処しやすくなりますね。

【心理士からのメッセージ&おすすめの本】自分への思いやりを忘れないで

――最後に、現在不妊治療中で、精神的に苦しさやつらさを抱える方々へ向けて、二人からメッセージをいただけますでしょうか?

戸田: 「自分で全部頑張らなきゃ」という方も多いと思うのですが、医療スタッフや、私たちのようなメンタルヘルスの専門家など、頼れるスタッフがたくさんいるので、ぜひ活用していただきたいと思います。不妊治療していると、メンタルヘルスが不安定になって当然。喉が痛かったらのど飴を舐めたり薬を飲んだりするように、当たり前のこととして、メンタルもケアしていただきたいです。

不妊治療は、つらい、ネガティブなものというだけではないと私は思っています。人生の中の大きなピンチに対し、例えばセルフケアをしたり、夫婦で話し合ったり、周りに助けを求めたりしながら一つひとつクリアしていく。それはやはり自己成長にもつながっていくはず。不妊治療を経験した方たちは、心が豊かな方が多いとも感じます。きっと治療している時間は、何一つ無駄になることはないと思います。

伊藤: つらいとき、苦しいとき、人にはかけてあげる言葉が、自分にはかけてあげられない、人には優しくできるのに、自分にはなかなか優しくできない、という方がとても多いと感じます。みなさん本当に頑張っていますよね。ぜひこれからの日々は、「セルフ・コンパッション」を胸に、自分に思いやりを向けることを忘れないでほしいと思います。

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