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10月22日付け共同通信の報道について「当院の公式見解」

1022日、共同通信にて、当院で行われた精子提供の体外受精における重大なガイドライン違反の内容などが報道されました。

これまで当院は、ガイドライン違反発生とその後の対応に関する情報発信、新規の精子提供の人工授精(以下、AID)と体外受精(以下、IVF-D)の停止など、迅速に対応してまいりました。違反の内容については、全ての関係者との協議が完了するまで公にすることは控えることもお知らせし、詳細は日本産科婦人科学会への報告のみにとどめてきました。

先日、本件に直接関係したドナーにおける権利保護の法的対策と解決の見通しが立ち、本件に関しては収束に向かっています。また、本ドナーの同意を得て、他のドナーへの本件の詳細説明を開始、相談窓口を設置しました。

その矢先、共同通信より報道の連絡が入りました。本件は極めてデリケートで、誤った情報や曖昧な報道による誤解を避けるため、当院は取材に応じることを決断しました。

また、この報道をうけ、当院は以下の公式見解を出すことと致しました。

公式見解の目次

1.はじめに

問題となった重大なガイドライン違反は、たった一人の患者が起こした違反行為です。精子提供を必要とする多くの患者は、契約を遵守し、真摯にこの治療と向き合っていることを冒頭にお伝えします。また、報道記事には非匿名ドナーの立場上のリスクが色々と記載されていますが、本件において、当院はドナーの法的な権利保護を一番に考え、法的対策と解決へ尽力したように、今後も『ドナーの権利保護』は『子どもの福祉』同様に最重要事項として注力して参ります。

2.ガイドライン違反の内容

患者が夫の死後も当院にその事実を伝えず、IVF-Dの胚移植を実施し、妊娠が成立したケースが発生しました。当院のヒアリングにより、患者はこの行為がガイドラインに違反していることを認識していたものの、第三者の精子提供で子どもを持ちたいという強い願望を優先し、行動に移していたことが確認されました。

3. 治療終了についての同意事項

精子提供による生殖補助医療の同意書には次の事項があります。『治療の途中で、夫婦のどちらか一方が死亡した場合、治療は終了となる。IVF-Dにおいて得られた凍結胚がある場合は、胚は破棄処分となる。死亡が夫の場合に、夫の配偶子は本治療に使用してはいないが、本治療は夫婦の同意のもと、夫婦の子どもとして行う治療であるため、夫が死亡の場合にも例外はない。受精卵、胚が破棄処分の場合に、これまでにかかった治療費などの返金はない』当該患者は同意書を提出しています。また、体外受精に関する同意書も提出しており、同意書に不備はありません。

4.違反発覚の経緯

IVF-Dで妊娠した場合、精子提供者の周辺情報の開示を含む妊娠後面談があります。当該患者は夫が死去したため、夫の親族と共に面談のため来院しました。この面談にて胚移植は夫の死後に行われたことが明らかとなりました。本件は重大なガイドライン違反です。当院は、事態を重くみて、精査と対応には十分な時間が必要であると判断し、新規の精子提供の生殖補助医療を停止することと致しました。

5.本件の主な問題点

① 法整備がない日本で、この医療は信頼と契約に依存している。本件は、信頼と契約の原則を根底から揺るがしていること。
② 夫が死亡後の胚移植で妊娠した本件は、患者の夫が子どもの法的な親とならず、非匿名ドナーの権利をおびやかす可能性を孕むこと。
③ ドナーは、非匿名での精子提供を決断する際の契約とは異なる精子の使われ方をし、患者はドナーの善意を踏みにじっていること。
④ 夫死後の生殖補助医療は、選択的シングルマザーであり当院ではこれを実施していない。選択的シングルマザーを希望するのであれば、それが可能な施設を国内外で探し実施するべきであること。

6.再発防止の措置

再発防止策1胚移植当日に夫の生存および胚移植への最終的な意思確認を電話で行い、その内容を録音して保存する手順を新ガイドラインに追加
夫の来院による対面での生存確認方法を検討しましたが、本件のように、患者やその家族の強い意志の下で行われる虚偽の申告は、対面であっても夫の替え玉の可能性があり限界があります。加えて、当院で精子提供の治療を受ける患者の約半数は関東地方以外の遠方から通院しており、毎回夫婦揃って来院し確認を行うには困難な背景があることから、電話での確認としました。

再発防止策2.子どもの福祉を最優先できる夫婦のみに治療を提供する方針を明確化し、その基準を新ガイドラインに明文化しました。
新ガイドラインでは、治療をうけることができる夫婦の要件に加えて、夫婦が治療においてどのように行動すべきかの説明も含め、より実践的なマニュアルとして活用できるよう設計しました。

 再発防止策3.チェックポイントの増加
治療を受ける夫婦が、ガイドラインを十分に理解、同意し、同意の通りに行動しているかどうかを確認するためのチェックポイントを、これまでの3カ所から新ガイドラインでは7カ所に増やしました。

 再発防止策4.学習機会の強化と理解の深化
「勉強会」を新設し、初診前の参加を必須としました。これは、夫婦に当院の「子どもの福祉が最優先」という方針を深く理解してもらう目的です。勉強会では、医療選択の多様性と他の医療機関についても紹介し、夫婦の考えに最も近い医療機関の選択をサポートしています。

 再発防止策5.現在治療中の患者の本治療に対する考えの確認と、理解の深化を目指した支援
法整備のない日本において、非匿名ドナーによる生殖補助医療を行うことは、当事者間の契約遵守と信頼のみで成立することを再三にわたり説明会や動画、文書等を通して説明して参りました。また夫婦の適切な子どもへの告知が、子どもの権利とドナーの立場を保障し、この治療がそれぞれの立場にとってより安全なものとなると考え、告知支援にも以前より一層力を入れております。

7. 本件の対応履歴

▼2023年5月-6月

  • IVF-Dで妊娠した患者の夫が死亡したことを把握し、当該患者との面談にて夫の死後の胚移植であったことが確定する。事態を重く受け止め、即座に新規のAIDIVF-Dの停止を発表
  • AID・IVF-Dに関する当院の考えと確認
  • 日本産科婦人科学会に本件を報告
  • 当該ドナーに違反内容の説明と謝罪を行う
  • 専門家と共にドナーの権利保護の法的対策について検討を始める
  • 再発防止を目的としてガイドライン改定の検討を開始(4か月間)

▼2023年7月

▼2023年9月

▼2023年10月

  • 当該ドナーの権利保護の方法の法的措置が決定。ドナー本人から解決策への同意を得る。また、当院の全てのドナーへの情報開示の許可を得る
  • 当院の全てのドナーにガイドライン違反の内容説明と当院で違反が発生したことの謝罪を実施。ドナーの相談窓口を案内

8.おわりに

この重大なガイドライン違反を経験し、法整備の無い中で、子どもの福祉を最優先とした非匿名ドナーによる体外受精に踏み切ったことは、大きな覚悟とリスクを伴うことであることを改めて感じました。

この治療を行う医師をはじめ、関わる全ての当院職員の思いと医療技術を不正に利用された本件は遺憾という言葉で表現できない以上のものがあります。本件に関して当院は、当該患者に対して法的措置を含めた責任追及を行う予定です。

一方、この治療と真摯に向き合い日々奮闘している多くの患者さんの気持ちを、当院はしっかり受け取っておりますので、今後も当事者目線の医療を提供し続ける気持ちに変わりありません。

本件を受けて『匿名ドナーにしておけば問題は避けられる』との議論が再び起こるのであれば、『子どもの福祉』が軽視されたままであり、時代と逆行してしまいます。この治療で最も優先されるべきは『子どもの福祉』です。

また、『生まれる子どもの出自を知る権利』と『ドナーの権利』が保全された法制化が実現し、この治療がそれぞれの立場にとってより安全なものとなる日を願っています。

20231022日
医療法人社団暁慶会
はらメディカルクリニック

院 長 宮﨑 薫
副院長 鴨下桂子
統括責任者 関口あや
職員一同

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