精子の持参方法【培養部より】
桜も咲き始め、暖かい日が増えてきましたね。
朝方はまだ寒い日もありますが、みなさま治療に使用する精液はどのようにご持参されていますか?
こちらの画像は当院で配布している持参用のカップに添付している資料です。
資料をご覧になって工夫して持参されている方もいらっしゃいますが、中には冷えたカップを持参されている方もいらっしゃいます・・・
そこで今回は、温度による精子所見の変化と適切な持参方法についてお話をしていきます。
精液を射出する前、精子は陰嚢のなかで貯蔵されています。
陰嚢は体温より低く34~35℃となっています。
では、検査や治療で精液を採取する際は何度で保管するのがベストでしょうか?
過去の論文に射出精子を4℃、20℃、37℃で保存し精子所見が経時的にどのように変化するのかを検討したものがありました。その論文によると20℃で保存したものは12時間経過しても運動率の低下があまり見られなかったものの、4℃と37℃では運動率が優位に低下したそうです。37℃での保存だと精液中の細菌が増殖することで精子が死滅したり、暑すぎると精子が活性化してしまいエネルギーを消費することで運動率が低下するそうです。
この論文から、精子は寒くても暑すぎても運動率が低下してしまうことがわかります。
いくつかの論文では20~25℃が精子を持参するのに最適な温度ともいわれています。
また、当院通院中の同一患者様33名の夏と冬の持参精子の所見を比較したところ、冬のほうが運動率、高速運動率ともに10%低下していました。
中には冬の精子所見が夏よりも60%も運動率が低下している方もいらっしゃいました。
この結果から、外気温によって精子の運動率が低下してしまうことが分かりました。
以上のことから、精子は非常にデリケートなため射出後の温度変化に弱いものということがお分かりいただけたでしょうか。
では次に寒い時期の適切な精子持参方法について紹介します。
20~25℃くらいで保温して持参するのには、温かいスープやお弁当を持ち運べることで有名なスープジャーなどの保温容器がおすすめです。
当院のカップの大きさはフタの直径が6.5cmと高さ7.5cmとなっております。
お手持ちの保温容器がありましたら、カップが入るかどうか試してみてください。
大きい容器をお持ちの場合は、タオル類で包んで容器にいれれば使用できるかと思いますので是非お試しください。
ただし、保温容器を使用する際も注意点があります!
精子は20℃以下の環境では運動率が落ちてしまいますので、採取からご持参されるまで寒い温度下で保管してはいけません。
せっかく保温容器を使う場合でも、保温容器自体が冷たくなっていては精液を冷やしてしまいます。
保温容器を常温、人肌にあたためる方法としてはご自身が寝ていた布団の中に容器を置いてあたためるのがおすすめです。
保温容器が手元にない場合は上記画像で紹介した方法になりますが、肌に近い場所に忍ばせてご持参ください。人の体温は36℃前後ですが、容器を肌に密着させて保管しても体温と同じ温度なることはないので精子に影響はありません。
また、カップを肌に直接触れるようにしてしまうと、こぼれてしまうこともあるかもしれないのでジップロックなど袋で包んでご持参ください。
タオルで包みご持参される場合、タオルが冷えていると意味がないので保温容器同様にタオル自体を温めてから容器をくるんでご持参ください。カップをタオルで包み、保温バックにいれて持ってきていただくとより良いかと思います。
余談ですが、かばんの中にいれてご持参されている方の場合にカップが転倒していてフタ部分に精液がついていることがあります。
そうすると精液をすべて回収することが困難になってしまい、治療に使用できる精液量が少なくなってしまいます。
ご持参の際にはなるべく、カップをたてた状態で転倒しないようご注意ください。
今回のコラム、いかがでしたでしょうか?
冷えたカップをご持参された方で希望の治療が選択できない方も少なくありません、せっかく治療をしていただくのであれば良い状態で精液を持参していただければと思います。
寒い時期のご予約をされて精液をご持参される場合はこのコラムを思い出していただければ幸いです。