こんにちは培養部です。
オートファジーのメカニズムを解き明かした功績が評価され、大隅良典教授が2016年のノーベル生理学・医学賞を受賞されました。日本人として大変誇らしい事ですね。
さて今回のコラムでは今注目を浴びているオートファジーと生殖との関わりについてお話したいと思います。
オートファジーは日本語で自食作用と呼ばれる、生物が普遍的に持つ機能です。
基本的な機能として、オートファジーは生命が飢餓状態を解消するために自身のタンパク質を分解し、エネルギーや新たなタンパク質の構成要素となるアミノ酸を得るために起こります。また近年、不必要となった細胞小器官やタンパク質、脂質、さらには細胞内に進入してきた細菌などを選択的に分解する新たな機能がある事が明らかとなってきました。
さて生殖にオートファジーはどのように関わってくるのでしょうか?
胎児期に形成された卵子は排卵までの長い間、休眠状態で卵巣の中に眠っていて、排卵の時を待っています。この時オートファジーの働きが阻害されてしまうと、休眠中の卵子の数が減少することが明らかとなっています。その事からオートファジーが卵巣内の卵子数を適切にコントロールするのに重要であるという事が近年の研究によって明らかとなってきました。
また受精直後にもオートファジーは活躍しています。受精した後の精子のパーツはどこに消えてしまうのか、気になっていた方もいるのではないでしょうか。精子が卵子内に侵入した後、卵子のオートファジー活性が上昇し、選択的に精子由来のミトコンドリアや鞭毛などを分解してしまうのです。そのため精子由来のミトコンドリアが次の世代に受け継がれることはないのです(稀に遺伝してしまうこともあるそうですが…)。
受精が完了した後、受精卵は新しい組み合わせの遺伝子情報を基に新しいタンパク質を作っていくことになります。この時卵子の中に元から溜め込まれていたタンパク質は邪魔になってしまうのですが、それらの除去にもオートファジーが関与していることが明らかとなっています。
さらに赤ちゃんが生まれる時にもオートファジーは重要な役割を担っています。
出生後すぐの赤ちゃんはへその緒からの栄養供給がなくなってしまい、母乳を飲み始めるまでの期間、飢餓状態に陥ってしまいます。この時赤ちゃんはオートファジーの活性を上昇させてエネルギー不足になる事を防いでいることが明らかとなっています。
ざっとご紹介させていただきましたが、生殖に関わる様々なことにオートファジーは影響を与えているようですね。今後オートファジーに着目した治療法なども出てくるかもしれません。
以上、培養部でした。