こんにちは。培養部です。
桜の花が咲き始め、暖かな日も増えてきた今日この頃、
皆さまいかがお過ごしでしょうか。
今回は、卵の成熟・未成熟に関してのお話をさせていただきます。
体外受精では、排卵が起こるぎりぎり前まで卵胞を育てて、成熟卵を獲得することが基本となります。しかし、卵胞を複数個育てる刺激周期においては、最も大きく育った卵胞が排卵する前に採卵を行うため、まだ育ち切っていない卵胞もある状態で採卵となります。このような小卵胞を穿刺することで、未成熟卵が取れてきます。このような未成熟卵は採卵直後には受精能力を持ちませんので、成熟するまで体外で培養をする必要があります。
ところで未成熟卵には、2つの発育段階があります。成熟に近い状態であるMⅠ期と、さらに未熟なGV期卵子です。MⅠ期の卵子であれば、採卵当日に成熟する可能性がありますが、GV期の卵子は残念ながらその日のうちに成熟する見込みはほとんどありません。そして、採卵時に未成熟で体外で成熟させた卵子は、採卵時に成熟していた卵に比べて、その後の受精、分割、胚盤胞形成率は低くなります。
採取された卵子が成熟か、未成熟かは、採卵直後の卵子の周りにはたくさんの細胞がついているため確認することができません。Conventional-IVFを行う際は、この周りの細胞が必要となるため、中の卵子が成熟か、未成熟なのかわからないまま受精の操作を行います。そして、それを確認できるのは、精子と卵子を合わせてから5~6時間後となります。そのため、受精方法がconventional-IVFの時は、卵子の成熟、未成熟は採卵翌日にお伝えすることになっています。
一方、顕微授精では、周りの細胞は不必要ですので、顕微授精に決まった時点で周りの細胞を取り除いていきます。そのため、患者様にお帰りいただく前に必ず卵の成熟の状態をお伝えしています。成熟の状態をすぐに知ることができるというのは、顕微授精を選んでいただいた際の一つのメリットと捉えることもできます。
上述のように、未成熟卵の胚発育の期待値は、成熟卵に比べると低いのが現状です。しかしその一方で、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の予防の観点から、あえて未成熟卵を狙って採卵をしていく方法も近年考えられています。また、未成熟卵子の体外成熟用の培養液の開発も近年行われており、未成熟卵の価値は高まりつつあります。実際、畜産動物の分野では、未成熟卵を採取して体外で胚を生産する方法が多く使われています。このような技術の進歩により、より少ない刺激で多くの卵子を安全に獲得できる方法が近い将来確立されるかもしれません。日進月歩のこの世界で新しい技術が発展していくのを心待ちにしています。