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多胎妊娠における医学的リスク

鴨下 桂子 医学博士
はらメディカルクリニック副院長

日本産科婦人科学会認定 産婦人科専門医
日本生殖医学会認定 生殖医療専門医

2007年東京医科大学医学部医学科卒業。 2009年東京慈恵医科大学産婦人科教室入局、2010年東京慈恵会医科大学産婦人科教室助教、2012年東京慈恵会医科大学附属病院 生殖内分泌外来 2014年聖マリアンナ医科大学産婦人科教室にて、卵巣組織凍結、がん・生殖医療の臨床及び基礎研究に従事、2016年東京慈恵会医科大学付属病院にて生殖内分泌外来、がん・生殖医療の外来担当。2020年国立がん研究センター東病院にてがん・生殖医療外来を新設、専任。2021年9月よりはらメディカルクリニック勤務。2023年6月より副院長就任。

体外受精を繰り返しても妊娠に至らない場合、成功率を高める選択肢の一つとして2個胚移植があります。しかし、2個移植で最も注意すべきなのは、多胎妊娠の確率が高まることです。多胎妊娠は、単胎妊娠と比べて母体・胎児の健康リスクが増加します。

この記事では、医学的エビデンスに基づき、多胎妊娠におけるリスクについて詳しく説明します。2個胚移植を検討される際は、ご夫婦でこの内容についてご確認ください。

多胎妊娠のリスクとは

母体:妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、早産
胎児:低出生体重、胎児発育不全、先天異常
分娩時:帝王切開率の増加、分娩時の合併症
新生児:NICUの可能性、呼吸器系の問題、神経発達

目次
  1. 単一移植でも双胎になる可能性
  2. 日本産科婦人科学会の方針
  3. 産婦人科医が2個移植をすすめない理由
  4. 多胎妊娠の母体リスク
  5. 多胎妊娠の胎児リスク
  6. 多胎妊娠の出産時リスク
  7. 多胎妊娠の新生児リスク
  8. 最後に

1. 単一移植でも双胎になる可能性

1回の胚移植で1個の胚を移植する場合であっても、一卵性双胎が発生する可能性があります。しかし、この確率は低く、当院における胚盤胞1個移植の一卵性双胎率は1%未満です。ところが、1回の移植で2個の胚を移植する場合は、一卵性双胎と二卵性双胎の両方が発生する可能性があり、多胎の確率が上がります

2. 日本産科婦人科学会の方針

日本産科婦人科学会では、移植する胚は原則として単一としています。ただし、35歳以上の女性、または2回以上続けて妊娠が成立しなかった女性については、妊娠率の向上を目的とした2個胚移植を許容しています。ただし、過去の病歴や体の状態によっては、条件を満たしていても医師の判断で2個移植ができない場合があります。

3. 産婦人科医が2個移植をすすめない理由

多くの産婦人科医が、多胎妊娠の合併症による深刻なケースを診てきていることから、できるだけ単一胚移植を推奨しています。不妊治療の目的は「妊娠すること」だけではなく、「母体と赤ちゃんが安全に出産を迎え、健康に成長できること」だからです。

一方で、体外受精の反復不成功の辛さも軽視できません。学会の指針でも、特定の状況下では2個胚移植が許容されているため、最終的にはご自身やパートナーとよく話し合い、納得した上で選択することが大切です。

また、反復不成功や流産において妊娠率を上げる方法として、PGT-A(着床前診断)を検討することも選択肢の一つです。PGT-Aは、胚の染色体異常を事前に確認し、より出産の可能性が高い胚を選ぶための技術です。ただし、PGT-Aは自由診療であることや、すべての方に有効とは限りませんので医師と相談しましょう。

参考:宮﨑院長のnote

4. 多胎妊娠の母体リスク

早産のリスク増加

早産(37週未満での分娩)は、多胎妊娠で最も注意すべきリスクの一つです。双胎妊娠では約60%が37週以前に早産に至り、約10%は32週未満の重度の早産になるという研究結果があります。これは単胎妊娠の早産率(約10%前後)に比べ格段に高く、多胎妊娠が全早産の約20%を占めると報告されています

早産は週数によっては、児の健康や発育に影響が出ることがあります。詳しくは、胎児の項目を参照ください。

妊娠高血圧症候群

妊娠高血圧症はこれをきっかけに多くの重篤な合併症を引き起こすので産科医が最も注意する合併症の一つです。

多胎妊娠では妊娠高血圧症候群の発症率が単胎妊娠の23倍に上ることが知られています。妊娠高血圧の原因は、妊娠自体が引き金となっているため、血圧のコントロールがつかない場合、母体に命の危険をもたらすので、妊娠を終わらせることしか治療となりません。そのため、週数によっては中絶、もしくは極端に早産の時期であっても、児の娩出を余儀なくされることがあります。また何とかコントールして妊娠を継続できたケースでも、妊娠後期に、常位胎盤早期剥離を引き起こすリスクがあります。これは母子ともに命に関わる状態で一刻を争うものです。

妊娠糖尿病

多胎妊娠では妊娠糖尿病のリスクも上昇し、双胎妊娠の約9%に妊娠糖尿病がみられたと報告されています。

妊娠糖尿病を合併した場合、母体の将来的な2型糖尿病への移行リスクも高まるため、分娩後も注意が必要です。

5. 多胎妊娠の胎児リスク

低出生体重

多胎児は出生体重が低くなる傾向が顕著です。低出生体重児(<2500g)となる割合は、双子以上では半数以上にも達し、単胎妊娠の約6%という割合に比べ格段に高くなります。
これは、多胎児が早産になりやすいことに加え、たとえ正期産に近づいても一人ひとりの胎児の発育が単胎より制限されるためです。

低出生体重そのものが新生児期・乳児期の合併症リスクとなります。体重が少ない赤ちゃんは体温維持や血糖維持が難しく、また免疫力も弱いため感染症に罹りやすいとされています。⁵さらに、長期的にも神経発達や成長に影響を及ぼす可能性があり、低出生体重児だった双生児は学童期以降に発達面でのフォローが必要になるケースもあります。

6. 多胎妊娠の出産時リスク

帝王切開の増加

多胎妊娠では帝王切開による分娩の割合が高くなります。米国の統計では、双胎妊娠の約75%が帝王切開で分娩されており⁹、次回妊娠時の分娩も帝王切開となります。

分娩時の合併症

多胎妊娠の分娩では、胎位異常、微弱陣痛、分娩時・産後出血などの分娩進行中の合併症が起こりやすくなります。

7. 多胎妊娠の新生児リスク

NICU入院の可能性

多胎妊娠で生まれた赤ちゃんは、新生児集中治療室(NICU)に入院する可能性が高くなります。主な理由は早産と低出生体重によるもので、呼吸や循環のサポートが必要なケースが多いためです。特に出生体重1500g未満や34週未満で生まれた場合、呼吸管理(人工呼吸器やCPAP)や点滴による栄養管理が必要となるため、NICU入院は避けられません。

呼吸器系の問題(新生児呼吸窮迫症候群など)

多胎児は新生児呼吸窮迫症候群(RDS)をはじめとした呼吸器合併症のリスクが高いです。これは早産による要因も多いけれど、多胎妊娠自体がリスク要因にもなります。

特に35週未満で生まれた双胎児ではRDS発症率が高く、一時的に人工呼吸管理が必要になるケースがしばしばあります。

神経発達リスク(早産との関連性)

双子で生まれた子どもの脳性麻痺の頻度は、単胎児の約5倍にのぼるとの研究報告があります。具体的には、出生後生存した小児1,000人あたり、双胎では約6.4人にCPがみられたのに対し、単胎では1.3人程度だったとのデータです。

この背景には、早産や低出生体重による脳室内出血、低酸素性脳症などのリスクが多胎児で高いことが関与します。他にも、極端な早産で生まれた場合には発達遅滞や学習障害のリスクが増加します。

しかし、上記の脳性麻痺のリスクについては、在胎週数や出生体重を調整すると「双胎であること自体の影響は限定的」とする報告もあります。つまり、早産さえ防げれば、多胎児でも神経発達は良好に経過することが期待できると考えられます。

8. 最後に

不妊治療の過程は心身に大きな負担がかかるため、少しでも早く妊娠につなげたいと願うのは当然のことです。 その中で、複数の胚を移植することは妊娠率を上げる方法の一つですが、同時にリスクも伴います。

私たち医療者は、妊娠だけでなく、その先の出産や子どもの健康までを見据えた治療を提供することが大切だと考えています。 本記事の目的は、リスクを不安に感じることではなく、正しい情報をもとに納得して選択することにあります。

2個移植を検討する際は、ぜひ医師と相談し、最適な方法を選んでください。私たちは、患者さんが母子ともに安全に妊娠・出産できることを心から願っています。

引用文献

Roman A, Ramirez A, Fox NS. Screening for preterm birth in twin pregnancies. Am J Obstet Gynecol MFM. 2022;4(2S):100531. doi:10.1016/j.ajogmf.2021.100531.

HealthMatch. What is the risk of gestational diabetes with twins. HealthMatch. Published August 25, 2022. Accessed March 4, 2025.

Children’s Hospital of Philadelphia. Low birthweight. Children’s Hospital of Philadelphia. Accessed March 4, 2025.

Filipecka-Tyczka D, Jakiel G, Kajdy A, Rabijewski M. Is growth restriction in twin pregnancies a double challenge? – A narrative review. J Mother Child. 2021;24(4):24-30. doi:10.34763/jmotherandchild.20202404.d-20-00016.

 Bonellie SR, Currie D, Chalmers J, Jarvis S, Colver A. Cerebral palsy among twins, triplets and single births: a population-based study. Arch Dis Child. 2005;90(6):F510-F514. doi:10.1136/adc.2004.052571.

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