不妊治療中は、ゴールが見えず強い不安を抱えてしまうことも少なくありません。「長く不妊治療をしているのになかなか授からない」「友達が妊娠しても素直に喜べない」などと悩み、気持ちが沈むとうつ症状が出ることがあります。
不妊治療による不安は、遠慮なく吐き出せる場所を見つけることが大切です。
この記事では、不妊うつになる原因やその症状を詳しく解説します。また、気持ちとうまく付き合う対処法も紹介しますので、参考にしてください。
不妊治療に関する悩みを抱えている人は多い
不妊に悩む夫婦はおよそ3組に1組の割合です。厚生労働省の出生動向調査によると、不妊を心配したことがあると答えた人の、約半数が「実際に治療を受けたことがある」と解答しています。実際に不妊治療を受ける人も増加傾向にあります。 不妊治療に対する悩みは人それぞれですが、その悩みにともなうメンタルの不調も問題視されています。2021年4月に発表された、国立成育医療研究センターのアンケートでは「体外受精などの高度不妊治療を始める女性または治療開始初期の女性」の半数以上に、抑うつの症状が見られたとされています。 出口の見えない不妊治療の負担は、身体だけではありません。心の悩みも、見過ごしてはならない大きな問題だといえるでしょう。 参考:厚生労働省「第15回出生動向基本調査」不妊治療によるメンタル不調の原因とは?
不妊うつは、さまざまな要因が絡み合って引き起こされます。「子どもを授かるための前向きな治療」とはいえ、不妊に悩む夫婦が抱える悩みはとても大きいものです。 ここからは、不妊治療を進めるにあたって、夫婦が抱える具体的な悩みを紹介します。妊活の終わりが見えない
妊活には「この治療をしたら必ず赤ちゃんができる」という、明確な答えがありません。そのため、いつまで頑張ればいいのか、終わりの見えない不安からメンタルの不調に陥るケースが少なくありません。 「今回は妊娠しているかもしれない」「妊娠している気がするからお酒を控えておこう」と期待しては、生理が来ることの繰り返しです。そのような期待と絶望により、心の負担を繰り返していればメンタルの不調を引き起こしても無理はありません。 また、不妊治療をしたからといって必ず妊娠できるわけではない点も難しい問題です。数年にわたり不妊治療に通っていても、なかなか授かれないことも珍しくありません。諦めるタイミングがわからないのも、うつ症状を悪化させる原因といえるでしょう。 日本産科婦人科学会のデータによると、体外受精によって子どもを授かる割合は12.9%です。年齢別では、30歳で21.8%、40歳で9.8%と年齢に比例して下がります。つまり、年齢が上がるごとに妊娠が難しくなることがわかります。回数が増えると費用が高額に
不妊治療には、高額な費用がかかります。自然妊娠を望んで自分で妊活する場合は、排卵検査薬や妊娠検査薬などの準備だけで済みます。 しかし、タイミング療法に挑む場合は、不妊治療を行なうクリニックへの受診が必要です。また、子宮やホルモン、精子などの検査により問題が見つかった場合は、治療費としての費用がかかります。 さらに、タイミング療法、人工授精から体外受精にステップアップする際は費用が高額になります。 2022年4月からの保険適用範囲拡大によって、治療にかかる費用は軽減したとはいえ、不妊治療を長く続けるほどその費用は高額となり、夫婦の負担として大きくのしかかります。 参考:厚生労働省「不妊治療の実態に関する調査研究 最終報告書」 参考:はらメディカルクリニック不妊治療の料金 また、回数や年齢に制限が設けられているため、それによる焦燥感も心に負担をかける要因となるでしょう。 指定された回数内に妊娠できる保障はなく、納得できないと感じる人も多くいます。このように費用の負担と、時間的な焦りも不妊治療の大きなハードルとなります。不妊治療の保険適用に関する内容は、以下の記事でも紹介していますので参考にしてください。 【関連記事】 「不妊治療が保険適用になるのはいつから?条件やメリットについても紹介」職場の理解や仕事との両立が難しい
妊活には、職場の理解が欠かせません。特に、体外受精や顕微授精などの高度不妊治療の場合、1ヵ月に10日以上の通院が必要なケースも少なくありません。休みの希望がとおりにくい職場であれば、妊娠のチャンスを逃すことにもなりかねないのです。 また、身体の状態によっては、急に受診日が変更になることもあります。排卵や移植のタイミングでも仕事を休む必要があり、仕事との両立が難しいと感じる人も多いようです。 職場からの理解が得られず、退職を余儀なくされるケースも少なくないでしょう。とはいえ、不妊治療にかかる費用を工面するためにも、仕事を辞めるのは良い選択とはいえません。希望した日に休みが取れなければ治療をスムーズに進めることはできないため、とても難しい問題といえるでしょう。 このように仕事と妊活の両立に悩むことも、メンタルの不調の要因になることがあります。必要な情報がみつからない・信憑性に欠ける
不妊治療に関する必要な情報が見つからないことも、不安を感じる原因になります。人それぞれ不妊の原因は異なるため、自分に合った情報を見極めるのは容易ではありません。 また、インターネットやSNSでは、不妊治療に関するさまざまな情報が溢れています。どの情報が正しいかがわからず、悩みの種になっているケースもあるでしょう。 なかには「〇〇を飲めば妊娠する」「〇〇すると妊娠しない」など、信憑性に欠ける情報もたくさんあります。妊娠を心から望む人からすると、すがる気持ちで信じたくなるかもしれません。 しかし、実際の体験談として掲載されている情報も、自分に当てはまるとは限りません。ときには「予定していなかったけど妊娠した」「3人目も予定どおり妊娠できた」などの声を目にすることもあるでしょう。不妊治療に悩む人にとって、自然妊娠の報告はとても辛いものです。このような声はメンタルの不調にもつながるため、辛い気持ちになるのであれば遮断することが大切です。 正しいかどうかわからない情報に振り回されていては、不妊治療の余計なストレスになり得ます。産婦人科が監修するホームページや、公的な学会の情報など信頼できる情報を見極めることが大切です。メンタルに不調をきたす「不妊(妊活)うつ」の症状
実は不妊うつは、自覚をしていなくてもノイローゼのような状態になっていることがあります。気が付かないうちに症状が悪化して夫婦関係や仕事に支障をきたすこともあるため、注意が必要です。 そこでここからは、不妊うつの概要や、よくある症状を紹介します。当てはまる項目がないか確認してみましょう。「不妊(妊活)うつ」とは?
不妊うつは、不妊治療に悩む人が抱える心のモヤモヤや不調のことです。とはいえ、正式に「不妊うつ」と診断されることはありません。 不調の原因が不妊であることから「妊活うつ」や「不妊ノイローゼ」とも呼ばれ「子どもが欲しいのにできない」と感じている女性に見られます。おもに、不妊治療や妊活中に心身の不調があり、今までどおりの日常生活が送れなくなってしまった状態を指します。 不妊で悩んでいる人のなかには、周囲に気軽に相談できない人もいるでしょう。そのため、不妊うつは周囲から理解されないことも多くあります。「よくある女性の心身の変化だ」と軽くとらえられるケースも少なくありません。 しかし、不妊うつは通常のうつ症状と同じく、しっかりとした治療が必要な状態です。一人で悩まず、専門家へ相談することをおすすめします。不妊うつでよくある症状
なかなか妊娠できないとなると、焦りを感じるかもしれません。生理が来るたびに「もしこのまま妊娠できなかったら」と、自分を責めるようなこともあるでしょう。 そのような状態が続けば、不妊うつにつながる恐れがあります。不妊うつに見られる症状は、以下のとおりです。- 「楽しい」「うれしい」と感じられない
- 妊娠への焦りが抑えられない
- 以前のようによく眠れない
- 妊娠できない自分を否定する
- パートナーへ不満を感じる
- 周囲の幸せを素直に喜べない
- 周囲の妊娠を自分と比較する
- 妊婦を見ると情緒不安定になる
不妊治療でのメンタル不調を防ぐには
不妊治療が原因で心身のバランスが崩れると、夫婦関係や日常生活にも支障をきたします。できれば不妊うつを未然に防ぎ、前向きな気持ちで赤ちゃんを迎えたいところです。メンタルの不調を防ぐ方法は、以下のとおりです。- パートナーと不妊治療への価値観や意見をすり合わせる
- SNSなど不安や悩みを吐き出せる場所を見つける
- SNSを見過ぎない
- 不妊治療の期間を区切って休息も取り入れる
- 妊活のことを考えない時間を確保する
- 妊娠している友人との関わりを一時的にやめる
- 産婦人科の医師・看護師やカウンセラーに相談する