妊孕性(にんようせい)とは|不妊との関係や温存療法について解説
不妊について調べている際、「妊孕性(にんようせい)」という言葉を目にしたことがある人も多いのではないでしょうか。妊孕性とは妊娠のために必要な能力を意味し、女性はもちろん、男性にも備わっている重要な能力です。この記事では妊孕性と不妊治療、がん治療との関係性、男女における妊孕性低下の違いについて解説します。
妊孕性(にんようせい)とは?
妊孕性は妊娠するために不可欠であり、妊孕性が低下すると妊娠しづらくなることがわかっています。
妊孕性は「妊娠するために必要な能力」
妊孕性とは妊娠するために必要な能力のことで、女性と男性どちらにも関係するものです。妊娠するためには卵子と精子が必要になりますが、それ以外に卵巣や子宮、精巣なども重要な役割を果たしています。そのため妊孕性は、妊娠にかかわる臓器や配偶子、機能を含めた「妊娠する力」とも言い換えられます。
女性の妊孕性
女性が妊娠するまでには、さまざまな過程を踏みます。大まかには、まず脳から放出されるホルモンによって卵胞が刺激され、それがある程度まで成長すると卵巣から卵子が排出されます(排卵)。排卵後、妊娠が成立するために必要なのは、卵子と精子が受精することです。その受精卵が卵管を通って子宮に着床すれば、妊娠と認められます。そのため、女性の妊孕性としては以下が挙げられるでしょう。
女性の妊孕性 | |
臓器 | 子宮、卵管、卵巣、脳下垂体 |
配偶子 | 卵子 |
機能 | 排卵、受精、着床など |
男性の妊孕性
妊娠に必要な精子は男性の精巣で作られます。精子は射精されなければ卵子と受精することができないため、勃起や射精能力も妊孕性の一部として考えられます。これらのことから、男性の妊孕性は以下のとおりです。
男性の妊孕性 | |
臓器 | 精巣、精管、脳下垂体 |
配偶子 | 精子 |
機能 | 勃起、射精 |
不妊治療は低下した妊孕性を治療できるのか?
妊孕性に関わる機能は、上記の通り女性も男性も複数あります。この中で、低下した妊孕性を治療(低下する前の状態にする)することができるのは、ごく一部に限られます。
低下した妊孕性を治療できない代表的な例としては、卵子や精子などの配偶子があげられます。卵子や精子などの配偶子の妊孕性は加齢にともなって低下します。具体的には、女性は卵子の質の低下や卵の数の減少、男性では精子の老化です。
体の細胞は時間とともに古くなっても、新しい細胞が生まれて入れ替わりが起こります。しかし、卵子においては新しい細胞に入れ替わることがなく、生まれて以降増えることはありません。そのため、加齢と共に卵子の数が減り、質は低下していく一方です。また、精子は約80日周期で新しい精子が作られますが、年齢とともに精子の数や運動率が低下し、DNA損傷率が上昇することがわかっています。
タイミング療法や人工授精、体外受精といった不妊治療は、妊孕性が低下した機能を元に戻す治療ではなく、妊孕性が低下した状態でもなるべく妊娠しやすい環境をつくることを目的とします。また、妊娠に向けた生活習慣の改善も、低下した妊孕性を元に戻すというよりも、今後の妊孕性の低下をなだらかにすることが主な目的と言えるでしょう。
不妊治療によって妊娠するための具体的な方法に関しては、以下の記事を参考にしてみてください。
妊孕性の温存
ここでは妊孕性の温存について紹介します。
がんなどの治療によって妊孕性は低下する
妊孕性はがん治療においてもよく使われる言葉で、がん治療を受けることで妊娠するための力が低下することがあります。しかし、最近は、がん治療をしながらも妊娠を望む場合には妊孕性の温存を相談できる医療機関が増えています。
当院では、がん治療などに備えた卵子凍結や精子凍結は実施しておりませんので、妊孕性温存を検討している方はこちらをご覧ください。
日本生殖医学会によると、女性の不妊頻度は25~29歳までが8.9%であるのに対し、30~34歳では14.6%、35~39歳では21.9%、40~44歳では28.9%となっています。つまり、女性の妊孕性は30歳頃から低下していき、自然妊娠の確率も減少傾向にあるといえるでしょう。
がん治療等による妊孕性の低下に備えた卵子凍結や精子凍結がある一方で、健康な男女においても自分の配偶子を凍結保存することは可能です。
例えば未婚で加齢による妊孕性の低下に不安を感じている方や、将来の突然の事故や病気を心配する方など、希望すれば卵子凍結や精子凍結ができます。
凍結した配偶子は将来のパートナーとの不妊治療に用いられます。妊孕性が低下した時点で不妊治療をするよりも、妊孕性が低下する前に凍結しておいた配偶子を使う方が妊娠の可能性は高くなるかもしれません。
しかし、卵子凍結においては凍結融解が卵自体にダメージを与えてしまう恐れもあり、必ずしも妊娠を保証するものではありません。
ですので、健康な男女における妊孕性の温存はそのメリットとデメリットをよく理解した上で検討することが大切です。
卵子凍結についての詳しく知りたい方は説明会にご参加ください。
加齢による男女の妊孕性低下の違い
妊孕性は加齢によって低下していきますが、女性と男性では低下のしかたが異なります。
女性の妊孕性低下は顕著
日本生殖医学会によると、女性の不妊頻度は25~29歳までが8.9%であるのに対し、30~34歳では14.6%、35~39歳では21.9%、40~44歳では28.9%となっています。つまり、女性の妊孕性は30歳頃から低下していき、自然妊娠の確率も減少傾向にあるといえるでしょう。
女性は年齢とともに、卵管炎や子宮筋腫、子宮内膜症といった婦人科系疾患の発生確率が上がりますが、これらの婦人科系疾患は不妊の原因となる状態を引き起こします。例えば卵管炎になると卵管狭窄や閉鎖の状態となり卵子と精子の受精を妨げたり、子宮筋腫ができると筋腫の場所によっては着床しにくい状態となったり、子宮内膜症においては、卵胞の発育不全や卵の質の低下などが起こります。また、卵子は年齢とともに減少していくほか、質も低下します。女性の妊孕性が年齢の影響を受けやすい理由には、こういった原因が挙げられます。
男性の妊孕性低下は判断しにくい
男性の精巣では生涯を通して精子を作り続け、作られなくなることはありません。とはいえ、その機能は加齢とともに低下していくほか、精巣も少しずつ小さくなっていきます。また、精子の質を示す指標であるDNA断片化率も年齢とともに上昇し、不妊治療の成績が低下する傾向です。
ただ、男性の加齢と妊孕性の低下についてはさまざまな報告があり、明確な判断ができないというのが現状です。
妊孕性を考えるときに大切なこと
妊孕性を考える際には、自分だけの問題ではないことを理解したうえで、正しい知識を身に付けることが大切です。
妊孕性は男女それぞれに備わっている能力である
「妊娠する能力=女性の問題」と思われがちですが、妊孕性は男性にも備わっている能力です。したがって、どちらか一方に責任があるわけではありません。
たしかに、男性の妊孕性低下については明確にされていない部分もありますが、性機能障害や造精機能障害なども不妊の大きな原因になります。妊娠を目指すためには、お互いの意見や要望を尊重したうえで、不妊検査や不妊治療に取り組むことが大切です。
妊孕性について正しい知識を身に付ける
妊孕性の低下は加齢によるものに加え、病気などのさまざまな原因もあります。そのため、年齢が若ければ必ず妊娠できるというものではありません。また、日常生活における習慣として性感染症や喫煙、不適正体重などが妊孕性のリスク因子ともいわれています。
しかし、妊孕性について正しい知識を持たないまま将来設計を行なっている人も少なくありません。その場合、子どもを授かりたいと思ったとき、適切な選択ができず妊娠まで遠回りをしてしまうこともあるでしょう。もっと早くに知っておけばよかったと後悔しないために、子どもを望む人もそうでない人も妊孕性についてきちんと理解しておくことが大切です。
まとめ
妊孕性は妊娠するための能力を意味し、おもに加齢とともに低下していきます。また、妊孕性の低下は病気など年齢以外の要因もあることを理解しておきましょう。
不妊治療は妊孕性の低下を止めたり、治す治療ではなく、自身の持つ妊孕性を最大限に活用して妊娠を補助する治療です。妊孕性について正しく理解できていないと不妊治療の長期化を招いてしまうかもしれません。まずは自身の妊孕性と向き合い、今後のライフプランをどうしていきたいのか、そして今できることは何かを考えてみてください。