※過去コラムは以下よりご覧ください。 シリーズ1 「コンベンショナルIVF」は ☞こちら シリーズ2 「顕微授精(ICSI)」は ☞こちら シリーズ2 「Piezo-ICSI」は ☞こちら
<レスキューICSIとは> レスキューICSIはコンベンショナルIVFを行い、それでも受精しなかった卵に対して後から顕微授精を実施する方法です。 <レスキューICSIを行う流れ> ① コンベンショナルIVF(媒精)を行い5時間後に受精の確認 ここでの受精の確認は第二極体の有無を確認します。卵子には未成熟卵と成熟卵があり、成熟卵になると受精能力を持ちますが、未成熟卵には受精能力がまだありません。また外見的にも変化が起き、成熟している卵子には第一極体と言われる小さい細胞が出現します。 その後成熟卵に精子が侵入し受精が起きると、第二極体と呼ばれる小さい細胞が出現します。コンベンショナルIVF後はこの極体といわれる細胞が2つそろっていることを確認することで受精の判定を行います。 ② 受精が確認できなかった卵に対してレスキューICSIを施行 最初の確認から時間を置きながら慎重に確認していきます。最終的な確認でも受精が確認できなかった卵子に対してレスキューICSIを実施していきます。 ※未成熟卵は受精能力を持っていない為受精操作を行わずに培養終了となります。 <メリット> ・コンベンショナルIVFで受精しなかった卵を救うことができる <デメリット> ・未受精卵であっても卵の状態によってレスキューICSIを行わずに終了する可能性がある受精の確認では第一極体と第二極体の両方が確認できることが必要となります。しかし上記図のように1つ1つわかりやすくきれいに出現すると判断しやすいのですが、1つの極体がいくつかに割れてしまっていたり、また周りにフラグメントと言われる細胞の破片が生じている場合や、極体自体がそのフラグメント状に出現していたりなど様々な状態があり判断が難しい場合があります。そのため受精していない卵であっても見かけ上受精しているように見えるため、結果R-ICSIを施行せずに終了してしまう場合が発生します。
・人為的な多精子受精を起こす可能性がある精子が卵子に侵入し受精の反応が起きるまで(第2極体の出現まで)には時間がかかります。コンベンショナルIVF実施後の受精確認で受精が確認できなかった卵子は、さらに時間を置いて確認するなど受精の確認には細心の注意を払っています。それでも、精子が侵入していても受精の反応がまだ起きておらず、見かけ上受精していない卵となってしまう場合があります。その結果レスキューICSIを実施し、すでに精子が侵入している卵に対して、さらに追加で精子を注入してしまうことで、多精子受精という異常受精の卵子にしてしまう可能性があります。
・受精率、発育成績が良くないレスキューICSIはコンベンショナルIVFを行っても受精が確認できなかった卵子に対して実施します。そのため受精時間が通常よりも遅いタイミングでの受精となります。一般的に受精が遅くなると受精率や胚発育の成績が低下する傾向があります。 また、レスキューICSI対象となる卵子はコンベンショナルIVFで受精しなかった卵であるため、元々受精する力や発育する力というのが弱い可能性があります。
・1個実施するごとに料金がかかる当院ではレスキューICSIを実施するごとに、卵子1個当たり¥33,000(税込み)かかってまいります。ですので実施する個数が多くなればなるほど金額が上がってしまいます。
今回ご紹介したレスキューICSIでは、デメリットも多く難しい内容だったかと思います。レスキューICSIの実施に関しては毎回ご選択に迷われる患者様も多く、培養士としても慎重に細心の注意を払いながら判断、実施が求められるところでもあります。 ですがレスキューICSIをすることで、コンベンショナルIVFで受精できなかった卵子を受精させることができる、という大きなメリットがあります。またコンベンショナルIVFを行った場合に受精障害の傾向が見られたり、たまたまIVFの成績が悪い周期だったという場合にはレスキューICSIを希望していてよかった!というケースもあります。そしてもちろんレスキューICSIを行った胚での妊娠出産の例もあります。 レスキューICSIを希望される場合には「〇個まで」「〇個受精していたら実施しない」など様々な実施制限を患者様に合わせて提案させていただく場合もございますので、詳しくは採卵後の培養士説明にてご相談いただければと思います。