排卵誘発の選択基準【院長宮﨑】
*これは、院長 宮﨑薫のブログ”note”の中から、不妊治療に関連する内容の中でアクセス数が多いものを抜粋しご紹介します。note で読む場合は前編はこちら、後編はこちら(このブログには前編・後編まとめて転記しています)
こんにちは。はらメディカルクリニック院長の宮﨑薫です。
はらメディカルクリニックのコンセプトは「最短での妊娠」です。今回は、最短で妊娠するための排卵誘発の選択基準についてお伝えします。排卵誘発の選択基準は次の3点がポイントになります。
POINT①採卵個数は累積生産率に比例する
なるべく多くの卵子を回収出来るように努めることが採卵周期あたりの累積生産率(妊娠後流産せずに出産まで到達できる確率)を高めることに直結します。論文にはこのように記載がありますー採卵数と累積妊娠率の間には正の相関があり、採卵個数が増えても妊娠率がプラトーに達することはない(Polyzos, et al. 2011)
POINT②採卵数を最大にし、なおかつ重症のOHSSを予防する
採卵周期あたりの累積生産率を高めるために採卵数を多くすることが重要ですが、同時にOHSSのリスクは高まってしまうため、OHSSの予防を前提とした排卵誘発を選択することが重要になります。
OHSSの予防としてASRMガイドラインである、アンタゴニスト法/アゴニスト(スプレキュアなど)によるトリガー/ドパミンアゴニスト(カバサールなど)/アスピリン(血栓予防)/PCOS患者様におけるメトホルミン使用を個々の状況に応じて実施しています。また、原則全胚凍結をします。
POINT③卵巣予備能に基づいて卵巣反応性を分類する
卵巣予備能を簡単に説明すると「卵巣がその時点で持っている妊娠するための潜在的な能力」のことです。これは”潜在的”という通り後から治療で治すことはできません。同じ年齢の異なる2人に、同じ排卵誘発量を同じ方法で投与しても2人の採卵数が異なるのは、2人の卵巣予備能の違いによるものです。ここで「自分は卵巣予備能が低いから採卵数は少なくて当然」と決めるのは早すぎます!!卵巣予備能に基づいて卵巣反応性を分類しなるべく多くの卵子が採取できるように排卵誘発を検討していくことが重要です。
この(1)~(3)に基づいた卵巣反応性の分類は、生殖専門医それぞれの経験、知識、考え方などで異なりますが、この複雑な内容を皆様にわかりやすく説明するために、神戸の英ウィメンズクリニック塩谷先生の文献を引用させていただきたいと思います。
それでは、塩谷先生の分類を引用させていただきつつ、排卵誘発の選択基準の結論に進みます。
■卵巣反応性普通の場合、採卵個数は、低刺激法では2-4個くらい、(中)~高刺激法では8-10個くらいが予想されます。(中)~高刺激法 では 低刺激法 の約3倍の卵子を獲得できますのでその分 (中)~高刺激法 の方が有利になります。
■卵巣反応性が高い場合、採卵個数を 低刺激法 と 中~高刺激法 で比較するとその差は2倍未満となり、 中~高刺激法 のメリットが小さくなりますが、採卵周期あたり生産率は 中~高刺激法 で68.9%、低刺激法 の45.6%と比較して非常に高いです。OHSSの重症化は予防可能となってきていることから、治療成績を重視すればこの場合も 中~高刺激法 が有利です。
■卵巣反応が低い場合、40歳未満なら5個前後の採卵を期待できる症例が少なくないので 中~高刺激法 を採用する余地があります。40歳以上では採卵個数の減少が顕著であり、採卵数は 低刺激法 と 中~高刺激法 との間の差が小さくなります。これは 中~高刺激法 のメリットが非常に小さいとも言えます。この時の排卵誘発の選択は、患者様が何を優先されるのかにより変わりますので相談をしながら検討していきます。
排卵誘発には、経口薬と注射薬があり、中~高刺激法の場合は注射薬を使用します。注射はクリニックに通院して打つことが一般的ですが、自己注射と言って通院せずに自分で注射をすることもできます。最近は仕事との両立のために自己注射を希望する方が増えています。
自己注射は難しいですか?とよく聞かれますが、操作自体は難しくはありません。事前に看護師と約40分間の練習をしていただきます。看護師が準備方法から、注射薬を注射針で吸い出す方法、そしてそれを実際に自分に打つところまで指導いたしますのでご安心ください。