不妊症の原因について|不妊症の定義、男女別の原因を詳しく解説
不妊症の検査・治療
不妊症とは
不妊症とは
不妊症とは、妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交をしているにもかかわらず、一定期間妊娠しない状態のことを言います。この一定期間を日本産婦人科学会は「1年」としていますが、月経不順や月経痛など不安要素がある場合は、1年を待たず「不妊かもしれない」ことを考え、早期に医師への相談を行った方がいい場合もあります。また、年齢を重ねるに連れて妊娠は難しくなるので、一般に不妊症のカップルは約10組に1組と言われていますが、近年妊娠を考える年齢が上昇していることもあり、この割合はもっと高いとも言われています。
不妊の原因の割合
不妊の原因にはいくつかあり、女性側に原因がある場合、男性側に原因がある場合、女性と男性両方に原因がある場合があります。
WHOが不妊のカップルを対象に行ったレポートによると、不妊原因の内訳は女性因子37%、男性因子8%、女性及び男性因子35%、原因不明5%、調査中に妊娠成立したものが15%でした。不妊症は女性に原因があると思われがちですが、女性と男性どちらにも原因があり、その割合は半々なのです。
女性側の原因
女性側の不妊の原因は大きく分けて排卵因子・卵管因子・子宮因子・頸管因子があると考えられています。
排卵因子
女性不妊症の30~47%の割合が排卵因子とされています。正常の月経周期は25~38日ですが、それより短かったり長かったり、もしくは月経が起こらないという場合には、ホルモンバランスの問題により、卵胞が育たなかったり排卵が起こっていないことがありえます。治療法としては薬物療法によりホルモンを管理し、卵胞の発育と排卵を促します。
原因となりうる疾患
- FSH分泌低下
- 黄体機能不全
- 多のう胞性卵巣症候群(PCOS)
- 高プロラクチン血症
- 甲状腺疾患
- AMH低値
卵管因子
卵管因子による不妊症は女性不妊症の32~42%と言われています。卵管は卵巣と子宮を結ぶパイプの役割をになっており、ここで精子と卵子が出会います。細菌感染などによってこの卵管がふさがったり、狭まってしまっていたりすると、精子が卵子に到達できず受精が起こりません。
治療法としては、通過障害のある部位を広く押し広げ開通させる手術(卵管鏡下卵管形成術FT)を行うか、軽度な癒着であれば子宮鏡下選択的卵管通水検査(子宮鏡を使って色素液を通しながら子宮と卵管を検査をする)でも閉じてしまった卵管が解除されることもあります。卵管が塞がってしまう原因となるクラミジア感染症等の治療も同時に必要となります。 もしくは、卵管の状態によっては手術はせず卵子を身体の外に取り出して受精させる体外受精が適用されます。
原因となりうる疾患
- 卵管閉塞
- 卵管狭窄
子宮因子
子宮は受精卵が着床し赤ちゃんになるまで育っていく場所です。この子宮に出来た筋腫や子宮の形に問題があることや、子宮内膜が妊娠に適した状態を維持できないことが原因で受精卵が着床出来ないことがあります。
治療法としては、着床を妨げる筋腫やポリープがある場合は手術によって取り除き、子宮内膜が妊娠に適した状態を維持できない場合には薬物療法を行います。
原因となりうる疾患
- 子宮粘膜下筋腫
- 筋層内子宮筋腫
- 子宮内膜ポリープ
- 黄体機能不全
- 子宮内膜症
頸管因子
子宮頸管は膣と子宮をつないでいる部分です。自然妊娠の場合、ここから精子が進入していくのですが、頸管粘液の粘りが強く精子が子宮に進入することができなかったり(頸管粘液の異常)、女性の身体が精子を異物とみなし精子の侵入を阻止する抗体を作ってしまう(抗精子抗体)ことで、妊娠ができない状態となってしまうことがあります。治療法として人工授精または体外受精を行います。
男性側の原因
機能不全
勃起ができず挿入できない勃起障害(ED)、勃起はするが射精がうまくいかない射精障害が機能不全に挙げられます。勃起障害(ED)のリスク要因としては糖尿病、高血圧、肥満、喫煙、睡眠時無呼吸症候群などがあります。その他、薬剤性によるものや精神的なストレスやプレッシャーなどによっても起こりえます。
射精障害は男性不妊症の原因として近年増加傾向にあり、その中でも膣内で射精ができない膣内射精障害が最も頻度が高いと言われています。また精子が体外へ出ず尿道に逆流してしまう逆行性射精も射精障害の一つです。糖尿病の末端神経障害として、逆行性射精が起こることもあり、近年は糖尿病の低年齢化とともに、このケースが急増しています。
精路通過障害
精巣内で精子が作られているにもかかわらず、精子が体外に出るまでの通り道に何らかの障害があり、閉鎖性無精子症(精液中に全く精子が認められない状態)や乏精子症(精液中の精子数が基準に満たない)を引き起こしている状態です。通り道の障害を取り除く手術が奏効すれば、精液所見は正常化し自然妊娠が期待できる場合もあります。もしくは精巣内の精子を回収して顕微授精することにより、妊娠の可能性が出てきます。
造精機能障害
男性に見られる不妊原因の多くは造精機能障害(精子をつくる機能に障害)にあると言われています。精液検査の結果、精子の数が少ない、精子の運動率が低い、正常形態の精子が少ない場合、ほとんどの方は精子をつくる機能(造精機能)に何らかのトラブルがあって、元気で正常な形の精子がつくられにくい状態だと考えられます。しかし、その原因は特定出来ない場合がほとんどで、日常生活のストレスや生活習慣も造精機能を低下させる要因となりえます。この場合、薬剤やサプリによる治療や生活習慣の見直しを指導します。
また、造精機能障害の原因の一つには、精索静脈瘤があります。陰嚢内にできた静脈のコブ(精索静脈瘤)ができると、精巣の温度が2〜3度上昇することが多く、熱に弱い精巣の造精機能が低下して精子所見の悪化を招きます。また精索静脈瘤がある男性の精子のDNAは断片化(壊れている)率が高いことも知られています。精索静脈瘤の治療には手術があり、これにより精液所見が改善される可能性があります。
また、先天性の造精機能障害もあります。クラインフェルター症候群に代表される染色体異常の場合、精巣で精子が作られることがなく、非配偶者間人工授精(AID)の適用となりえます。(クラインフェルター症候群であっても精巣で精子が作られる場合もあります)
副性器障害
副性器とは睾丸(精巣)以外の精巣上体(精子を貯蔵する場所)、前立腺(前立腺液という精液の一部を作る場所)、精嚢(精嚢液という精液の一部を作る場所)などの臓器のことです。これらの臓器が炎症を起こすと精子の運動率が低下したり、精子の形が悪かったりと問題が起こることがあります。炎症の多くの原因は感染症によるものなので、薬剤による治療が必要になります。
===参考===
WHOの精液所見の基準値
液量:1.5ml以上
濃度:1500万/ml 運動率:40%
当院の精液所見の基準値
液量:2.0ml以上
濃度:2000万/ml
運動率:50%
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原因不明の不妊
どんなに検査をしても原因がわからないことがあります。これは原因がないのではなく、今ある検査では明らかにできない原因が潜んでいるということです。
妊娠する過程での障害
原因不明の不妊で考えられる原因の一つは、妊娠するまでの過程で、何らかの障害があるため妊娠出来ないということです。この場合には人工授精や体外受精によって、妊娠までの過程を補助し妊娠をサポートします。
卵子あるいは精子の質の低下
もう一つは卵子あるいは精子の質(正常に受精し育つ機能が備わっていること)が低下していることが考えられます。この原因は加齢によるものとされており、2011年の日本のART登録データによると、胚移植当たりの生産率は24歳以下では30%、25~29歳では31%、30~34歳では28%、35~39歳では22%、40~44歳は9%、45歳以上になると2%と年齢の上昇とともに生産率も下がっていることがわかります。一方、米国疾病予防管理センターのデータによると若年女性からの提供卵子を用いた場合、年齢の上昇とは無関係に高い生産率が得られることが報告されています。つまり、加齢による妊娠率の低下の主な原因が「卵の質の低下」であることを示唆しています。しかし加齢による「卵子の質の低下」の詳細なメカニズムはまだ不明であり、加齢に伴う不妊症に対して有効な治療はまだないのが現状です。