不妊症・男性不妊・人工授精・体外受精・胚移植・AID・精子バンク等の不妊治療・不妊専門クリニック。
INTERVIEW
精子提供ドナーが感じた、
AIDの社会的イメージとリアル

日本では、無精子症の夫婦に必要な精子を提供する「精子ドナー」の存在がほとんど知られていません。しかし、当院には年間280人もの精子ドナーが登録されています。厳しい基準と多くの検査を経てドナーに選ばれる確率は26%と限られており、その任務は決して簡単なものではありません。それにもかかわらず、なぜこれほど多くの人々がドナーに志願して下さるのでしょうか?当院はこの質問に深く迫り、ドナーの心情を探り、ドナーを個々の存在として理解し、社会にも知ってほしいと考えこのインタビューを実施しています。

精子提供ドナー登録に至るまで

ー 精子提供をすると決めたきっかけはどのようなことですか?
ヤマダ(仮):最初はテレビのニュースや新聞で精子提供というものを耳にしたのですが、大学や大学院で授業を受けたことで精子提供について、詳しく知りました。そして、この年齢になって、寄付や献血といったドナーをやり始めたんですよ。その一環であることは間違いないです。

ここ数年、私の同期だったり、同年齢の友人たちが結婚・出産と家庭を築き上げていく中で、子作りがなかなかうまくいかないという事例を目にする機会があったんです。そこで気になって調べたところ、はらメディカルクリニックさんのことを知り、そこから興味を持って精子提供に踏み切りました。
ー 他の方法での精子提供も検討されましたか?
ヤマダ:ないですね。非常にリスクが高いことだと思います。
ー なぜ、他の人のために精子提供をしようと思ったのですか?
ヤマダ:ひとつは、ドナーの数が少ないだろうな、と個人的に推測したからです。まだ、日本の男性の生涯未婚率がそこまで高くないことを加味した時に、結婚を考えている方がドナーになると、将来の奥さんや子どもに伝えるかどうかの問題が発生するので、踏み出しにくいと思います。だからこそ、結婚を視野に入れていない自分のような人間が精子提供者になるべきなのかなと思いました。

もうひとつはやはり少子化問題ですね。このニュースは私の幼少期からすでに話題にあがっていて、子どもがほしくてもできない夫婦と日本社会全体の子どもの数が減っていくというのは、解決すべき課題だという考えからドナー登録するに至りました。
ー 当院で精子提供の詳細を聞いてどのように思いましたか?
ヤマダ:最初に契約書等を渡されたのですが、その文面を見ると、やはりドナーに対する権利を保護する考え方や提供した精子がどのように活用されるのかがしっかりと記載されていて、個人間でのやりとりに比べて安全に提供できることを再認識できました。

また、お医者さんだけではなく、培養士さん、看護師さんとのお話の内容や知識量が信頼に繋がったんだと思います。そして、検査等をしっかりやってくださった点も安心できるポイントでした。
ー 当院では精子提供ドナー・治療をする夫婦・生まれる子どもに対してお互いを保護するような役目を担っているので、その部分の安心感が精子提供をすることでの決め手の一つになったのですね。
ヤマダ:その通りです。個人間でのやりとりはリスクがあるため、提供した精子を受け取る夫婦や生まれてきた子どもの仲介役になってもらえる、そういった意味もあって、はらメディカルさんでは安心してドナー登録することができました。

生まれてきた子どもや夫婦との関係性

ー あなたが提供した精子で生まれてきた子どもと会える可能性があることは、ドナー登録をするにあたって影響はありましたか?
ヤマダ:私は特にそこを気にしていなくて、、、生まれてきた子どもと会うとしても18歳以上になってからの話ですので、いわゆる成人年齢であれば自分のルーツを知る権利は当然あると思います。そのため、あまり問題視はしていませんでした。

かといって、子どもと会える側面があるからこそ、はらメディカルクリニックさんでドナー登録をしたという意図もありません。公的な関係でもないですし、あまり自分の子孫を残すことに興味がないですね。非匿名のドナーとして登録していますが、生まれた子どもの意思を尊重したいので、その子どもが会うことを望めば、私はそれを受諾すると思います。
ー あなたが提供した精子で生まれてきた子どもに対して、どのような思いがありますか?
ヤマダ:特にないというのが正直なところです。私からこうしてほしいっていうのは無いので、強いて言うのであれば、健康でいてほしいという思いはありますね。むしろ自由に、自己決定権を持って、人生を進んでほしいと思います。
ー あなたが提供した精子で子どもを授かったご夫婦に対して伝えたいことはありますか?
ヤマダ:私が口を挟むことではないと思いますが、今はネグレクトとか毒親みたいな親子関係にはなってほしくないとは思いますね。

精子提供をして感じたこと

ー 当院での説明を聞いて、それまで持っていた精子提供のイメージと変わった部分はありましたか?
ヤマダ:大きくは変わらなかったのですが、元々はAID治療に対して、カタログを見ながら検索をかけて理想の子どもを作るような一方的なイメージがありました。ドナーさん(精子)を選ぶという精子バンクのやり方は、なんとなく優生思想に近い気がしてあまり好きな考え方ではなかったのですが、はらメディカルさんではそういう考えが無いことを感じましたし、純粋にAID治療を広めようとしている医療エキスパートな印象があります。
ー 社会での「精子提供」のイメージについてどのように思いますか
ヤマダ:あまり多いとは思わないですが、偏見を持つ人は大なり小なりいるので、AID治療に関して偏見を持たないでほしいという気持ちはありますね。例えば、あだ名で呼ばれたり、AID治療に対する誤認から、いわゆる天才児みたいな冷やかしを受けたりする事例を聞いたことがあるのですが、特に子どもの時の成長環境とか浴びせられた言葉ってものすごく人格に影響するので、やはりそこは気がかりです。そして、AID治療で生まれた子どもだけでなく、事実婚の家庭や片親世帯などのいろんな家族の形に社会がもう少し寛容だったらいいなとも思います。
ー そういったイメージがある中で、あなたは「精子提供をした」ことを他の人との会話で話題にしますか?
ヤマダ:いや、しないと思います。私自身このことは他人に言わないつもりなのですが、唯一引っかかるのは自分が扶養する子どもが生まれた時の話ですね。それに関しては、近親婚になるリスクがあるので、自分の子どもには話すと思います。
ー そのことについては、今回提供を検討するにあたっていろいろお考えになっていたんですか?
ヤマダ:そうですね、提供を検討するにあたって、私が考えたことがふたつあるんです。ひとつめの私の遺伝子リスクに関しては、検査をした上で問題がなかったので提供しました。もうひとつの問題である近親婚については、精子提供によって生まれた子どもが結婚した場合、近親婚とならないかどうか確認できるような形で契約を結んだので、大幅にリスクは減ったんではないかと判断して提供したということです。
ー 精子提供に対する社会の認識に今後期待することはなんですか?
ヤマダ:もっと社会にAID治療が認知されて、ドナーが増えることで、AID治療のメリットを享受できる人が増えてほしいというのが希望です。ドナーが増えると社会に属する人たちのAID治療に対する考え方も変わってくると思います。
ー 最後に、はらメディカルクリニックに対して伝えたいことはありますか?
ヤマダ:この事業を継続してほしいという気持ちが一番強いです。少子化対策といっても、AID治療を推進する政策はなかなか出てこないと思うので、はらメディカルクリニックさんの理念には感銘を受けました。そこで、この事業を継続していく中でデータを収集して、論文等で医学会にも貢献してほしいなという気持ちは大きいですね。

インタビュアープロフィール

戸田(心理士)(聞き手)

公認心理師|日本臨床心理士資格認定協会認定臨床心理士|日本ブリーフセラピー協会認定ブリーフセラピスト・シニア|日本生殖心理学会認定がん・生殖医療専門心理士|日本生殖心理学会認定生殖心理カウンセラーの各資格を有しています。2009年東京成徳大学大学院心理学研究科臨床心理学専攻を修了し、行政の子ども家庭支援センター、発達障害相談センター、少年サポートセンター、精神科クリニック、スクールカウンセラーとしての職務を経験。2018年からは非常勤の心理士としてはらメディカルクリニックに勤務しながら、妊活LINE相談サポート・ファミワンのアドバイザーも兼務。専門は家族やカップル間のコミュニケーションに焦点を当てた心理療法であり、個々の問題や病理を直接対処するのではなく、家族の関係性の変化を促進することに主眼を置く。クライアントに対し全体的な視野から問題を理解し、解決策を見つけるサポートを提供。

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