妊娠判定(早期妊娠診断とhCG値の関係)|適切な検査時期およびhCGの値でわかること・わからないこと
不妊症の検査・治療
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hCG(human Chorionic Gonadotropin:ヒト絨毛性ゴナドトロピン)は、胚(受精卵)の着床後、つまり妊娠のごく初期から分泌されるホルモンです。
通常、hCGは妊娠中のみに産生され、妊娠の成立・維持に欠かせない役割を担っていることから、hCG検査は早期妊娠診断や異常妊娠の診断などにも活用されています。
もっとも、hCGを妊娠判定に用いるためには、適切な時期に検査をしなければなりません。また、hCGの値だけでは予測できないこともあります。
そこで今回は、hCGの役割と活用場面、体外受精後の早期妊娠判断に適切な時期などを解説します。hCGの値でわかることやhCGを測定してもわからないこと、胚移植後の過ごし方や注意点なども併せて紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
hCGとは
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そもそも、hCGにはどのような役割があるのでしょうか。hCGがいつ・どこから分泌されるのか、また、どのような場面で活用されているのかも併せて見ていきましょう。
hCGの役割
hCGは、胚(受精卵)と子宮内膜を結び付ける組織において生成・分泌されるホルモンで、LH(黄体形成ホルモン)とよく似た構造をしています。
hCGが分泌されるのは、胚が着床したあとです。妊娠初期には黄体を刺激し、妊娠を支えるプロゲステロン(黄体ホルモン)の産生を促します。さらに妊娠6~8週頃までは胎盤の形成や発育をサポートして、妊娠維持を促進します。
このように、hCGは妊娠の成立と維持に欠かせない役割を担っています。
hCGは「いつ」「どこから」分泌されるのか?
胚移植後、順調に進むと1~2日以内に着床が始まります(イラスト②~③)。そして、hCGは胚と子宮内膜を結び付ける組織から分泌されます(イラスト③)。
着床が進んで胚が内膜の間質へ侵入すると、hCGの分泌量が急激に増加します(イラスト④)。
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hCGの活用場面
通常、hCGが検出されるのは妊娠中のみです。その特性から、hCGは妊娠の早期診断や異常妊娠の診断などに活用されています。
早期妊娠診断
hCGは、胚の着床直後から分泌量が徐々に増え始めます。一方で、非妊娠時は基本的に検出されません。この特性をうまく利用しているのが、早期妊娠判断となる、「hCGの血液検査」や「hCGの尿検査」です。血中hCGと尿中hCGの変化は、ほぼ同じと考えられています。
もっとも、着床直後はまだhCGの分泌量が少ないため、妊娠検査薬を使用しても「陰性」判定が出るおそれがあります。また「陽性」判定が出ても、正常な妊娠ではない可能性も否定できません。
したがって、妊娠の可能性がある場合は、医療機関で正確な診断を受けることが大切です。
妊娠初期における異常妊娠の診断
hCGは、妊娠初期における流産や子宮外妊娠の診断にも用いられます。
妊娠検査で陽性と判定されたものの、胎嚢が見えず、血中hCGの値が非妊娠時と同程度まで低くなる場合は、流産の可能性が否定できません。
一方、胎嚢が確認できないにもかかわらず血中hCGの値が高くなる場合は、子宮外妊娠が疑われます。子宮外妊娠は発見が遅れると母体に危険がおよぶこともあるため、注意が必要です。
なお、子宮外妊娠の場合、hCGの増加速度は正常妊娠より遅く、経時的に低下することもあります。
体外受精における妊娠判定
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体外受精で胚移植を行ない順調に進むと、胚が子宮内膜に接着します。これが着床の始まりです。
着床が進むと、着床部位からhCGが分泌され、母体の血液中に流れ込みます。胚移植後は、血液検査を行なってhCGの濃度を測定します。
hCG検査の時期
体外受精で胚移植をした場合、1回目のhCG検査は着床の有無を確認するために行ないます。
ただし、検査時期が早すぎると着床が十分に進んでいないため、正確な結果が得られません。胚盤胞移植の場合は移植日から10日前後、初期胚移植の場合は移植日から13日前後に検査を行なうのが適切です。
hCGの値でわかること
採血してhCGの値を測定すると、着床の進行状況を確認できます。一般的に、hCGの値が高いほど妊娠継続の可能性が高くなります(下表)。
当院では、胚盤胞移植の場合は移植日から約10日後、初期胚移植の場合は移植日から約13日後に最初のhCG検査を行ないます。この時点で、hCGが10mIU/mLを超えていれば着床している可能性があると判断し、薬剤の使用を継続します。
さらに、最初のhCG検査から7~10日後に再度検査を行ない、着床がどの程度進んでいるかを確認します。
一方、hCGが10mIU/mL未満の場合は薬剤の使用を中止して次の月経を待ちます。
hCG検査日 | hCGの値(mIU/mL) | 妊娠継続の可能性 |
---|---|---|
胚盤胞移植の場合は移植日から10日前後、初期胚移植の場合は移植日から13日前後 | 100以上 | ◎ |
30~100未満 | ◯ | |
10~30未満 | △ | |
10未満 | × |
なお、着床前診断(PGT-A、PGT-SR)を実施した胚は、栄養外胚葉を一部採取する影響でhCGの値が低く出る傾向があります。
そのため、当院では、着床前診断を実施した胚については、最初のhCG検査でhCGが4mIU/mL以上であるかどうかを基準に着床の可能性を判断しています。
hCGの値ではわからないこと
hCGの値だけでは、子宮外妊娠や流産は予想できません。生理のような出血がある場合でも、月経ではなく異所性出血(受精卵が子宮以外の場所に着床して発育した異所性妊娠(子宮外妊娠)で生じる出血)の可能性があります。したがって、胚移植後は必ず診察を受けてください。
hCG 注射による黄体補充療法を受けた場合の注意点
胚移植後、hCG注射で黄体補充を行なった場合、注射から6日以内の採血では実際よりhCGの値が高く出ることがあるため、注意が必要です。
一方、胚移植後の黄体補充を行なわなかった場合、あるいはルトラール(黄体ホルモン剤)のみ、プロゲステロン坐薬(黄体ホルモン膣坐剤)のみを使用した場合は、適正なhCGの値が検出されます。
妊娠判定における「血液検査」と「尿検査」の違い
これまでの説明のとおり、妊娠しているかどうかはhCGの検出をもとに判断しています。では、hCGの検出方法として「血液検査」と「尿検査」では、どのように異なるのでしょうか?
血液検査:正確な値までわかる
[正確な数値がわかる]血液検査では、hCGの量を正確に測定できます。着床の有無だけでなく、妊娠の進行状況や継続の可能性なども予測できます。
[今後の指標になる]妊娠判定の結果が陰性であっても、hCGの数値をもとに着床したかを確認することができます。これにより、胚移植や検査など、次回の治療方針に役立ちます。
体外受精の場合は正確な妊娠判定が重要になるため、血液検査を行なうのが一般的です。
尿検査:手軽
[手軽で早い]尿検査は、hCGが一定の基準値以上に達しているかを簡単にチェックできることから、市販の妊娠検査薬でも多く利用されています。
[種類の違い]市販の検査薬では、50 IU/L以上を陽性と判定するものが主流ですが、25 IU/L以上で検出できるタイプもあります。
もし尿検査が陰性でも、着床が遅れていることでhCGの基準値に達していない、という可能性があります。しばらくしても月経が来ない場合は、もう一度尿検査をするか医療機関を受診してください。
胚移植後の過ごし方と注意点
胚移植後、「安静にしているほうが妊娠しやすいのでは」と心配される方もいらっしゃることでしょう。しかし、多くの研究によって安静が妊娠率や流産率に影響しないことが確認されています。
また、「これをすれば妊娠できる」「これをしたら妊娠できない」というような生活指針もありません。普段と同じ生活を送っていただいて問題ありませんので、安心してお過ごしください。特別な指示がない限り入浴も移植当日から可能です。
また、「安静にしていないと胚が動いてしまうのでは」と心配される方もいらっしゃいますが、移植された胚は子宮内膜の上を自然に動きながら着床するため、そのような心配はしなくても大丈夫です。
着床・妊娠を維持するために大切なのは、胚移植後の薬剤を毎日忘れずに使用することです。また、来院日を変更する際には、次回までの薬が手もとに十分あるかどうかを必ず確認してください。
胚移植後の安静に関する研究について詳しく知りたい方は、以下のページをご参照ください。
妊娠反応の結果について
それぞれ以下のページをご参照ください。
まとめ
hCGは、胚の移植後に胚と子宮内膜を結び付ける組織から分泌されるホルモンです。
hCGは妊娠のごく初期から分泌され、妊娠の成立・維持に重要な役割を果たしていることから、血中hCGの値は妊娠の早期判断や妊娠継続可能性の予測にも用いられています。
とはいえ、hCGの値でわかるのは着床の可能性や進行状況のみです。他方、hCG検査を受けても、子宮外妊娠や流産は予測できません。
なお、着床前診断を実施した場合やhCG注射で黄体補充療法を受けた場合などは、hCGの値に影響が生じることもあるため注意が必要です。
胚移植後はhCG検査の結果が良好でも必ず受診し、経過観察を欠かさないようにしましょう。
はらメディカルクリニックは東京都内最初の不妊治療専門クリニック。
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